忘れたくない人(ラウル)

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忘れたくない人(ラウル)

 勢いで教会から宿舎に戻ったラウル達を待っていたのは、鬼のような形相をしたエリオットだった。  引きつったシウスの表情と、あまりに恐ろしげなエリオットに戸惑っていると、ランバートがすぐに背に庇ってくれた。  ドキドキして見上げると、苦笑いを浮かべている。とりあえず病室へと連行されるシウスについて、ラウルは恐る恐る騎士団宿舎へと入った。  誰も咎めたりしなかった。迎えてくれた黒髪長身のファウストと、同じく黒髪長身でちょっと強面なクラウル。クリーム色の髪をした優しげなオスカルが目を丸くして、事情を話したら笑って受け入れてくれた。  なんだか、ほっとした。クシャリとクラウルが頭を撫でて、目を細めている。それを見ていると自然と「ただ今戻りました」と出てきた。  黒い瞳が見開かれて、次には「あぁ、ご苦労」と言ってくれる。どこか、しっくりとくるやりとりなのに、クラウルはほんの少し泣きそうな顔をしていた。  ラウルの事は既に隊員皆に説明がされているらしい。怪我が原因で記憶を無くしてしまったのだと。今は休みながらできる事をすればいい。そう言ってくれた。     
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