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そんなとき、部屋の外がにわかに騒がしくなったかと思うと、皇子にとって非常に馴染みのある声が耳に入ってきた。
「何をするんですか! いったい私をどうするつもりですか!」
そこには側近らに抱えられるようにして連れてこられた乳母の姿があった。
「あ……」
一晩会っていないだけなのに、何だか随分と懐かしい。そしてかなりの心配を掛けてしまったらしく、彼女は目が合った瞬間駆け寄ってくるなり皇子をぎゅうぎゅうと抱き締めた。
「本当に、本当に、ご無事で何よりです。帰ってこなくて、本当に心配しました」
「ごめん、心配掛けて。町のみんなも表に出て見物していたから、僕も少し見てみたくなって……。すぐに戻ってくるつもりだったけど、それがこんなことになって……。本当にごめん」
ずっと心から尽くしてきてくれた。そんな彼女の涙を見ると、皇子はとにかく謝らずにはいられなかった。
「……少し、いいだろうか?」
彼女との再会を喜んでいると、最近ではだいぶと耳慣れたものの普段使っている言葉とは違う響きが、皇子の耳へと飛び込んでくる。
そうだ、霄溥を待たせているのだった。彼には色々と聞きたいこともある。
皇子は『はい』と返事をすると、皆――特に乳母を席に着くように促した。
皇子は霄溥の隣に座った。
「さて、既に知っているかも知れないが、私は都から遣ってきた」
表情を引き締めた霄溥が口を開いた。
皇子が理解しやすいようにと、言葉を選んで丁寧に話してくれているように感じる。己の呼び名を紙に書いて渡したことといい、こちら側の事情をおそらくは分かっているのだろう。皇子は理解できていると示すために深く頷いた。
「そして私は都にいるとき、とある話を聞いた」
そこで霄溥は一旦話を切ると、皇子に何かを書き記した紙を渡した。
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