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「まっこち、昨夜は一人しっせぇ、こげん酒を飲んだとね!」
「……ん、う~ん……おぼえて、ない……」
イナミは体を起こし、ノビをした。背骨がミシミシと軋む。関節の中にアルコールが溜まっているようだと思いつつ、スマホの目覚まし音を消した。
「もう何ね、アンタも28歳やっとにしっかりせんと!」
カーテンを開けながら叱咤する母親に少し苛つき、イナミはつい「もう28歳だからこんなにお酒も飲めるんでしょ」と、言い返してしまう。ゆっくりと立ち上がり、母親からタオルケットを奪いかえし、丸めてベッドの足元に投げ置いた。
「まっこち、そんで、ソウジくんはいつ来っとね?」
「……こない」
「なんち? 聞こえんなった」
「来ないよ、このあいだ別れた」
ソウジとは先週別れたばかりだった。大学を卒業してすぐ共通の友人を介して出会い、8年間つき合っていた。映画監督を志し、映像制作の仕事をしていたソウジは、世界遺産とその国に住む人々の暮らし向きを撮影したいと言い、外国へ旅立った。ひょっとしたら、一緒について来て欲しかったのかもしれない。けれど、イナミにはできなかった。今年のお盆休みに実家の両親へ挨拶に行こうという約束をしていたのだが、一方的な取り消しになった。
「また何でねぇ?」
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