うつわの水たまり

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 自宅に戻って数分後には宅配便が届いた。受領印を捺す時間さえもどかしく感じるほど早く中を開けてしまいたかった。 キッチンに置かれた小さいテーブルに荷物をそっと載せた。早く中を見たくて乱雑にガムテープを剥がす。木箱が見えた。木箱を開けると緩衝材に包まれた茶わんが入っていた。 「凄い……」  緩衝材を剥がすとアラタが実験を重ねる中で編み出した白磁でも薩摩焼でもない、青白い肌をした、少しゆがんだ茶わんが入っていた。そして白金彩色で桜と川が描かれていた。桜の幹はしっかりと太く、後ろに流れる川がなぜだか川内川だとはっきりわかった。ノジュールは釉薬に、プラチナの指輪は絵付けにとアラタは言っていた。実らなかった気持ちも違う形になって手元に戻ることがある。 「すっかり別なものに生まれ変わることができるのね」  箱の底に一枚メッセージカードが入っていた。 「またいつでも来い、か……」  きゅっと胸が締めつけられる。故郷の伊佐に今すぐ戻りたい衝動にかられた。仕事を辞めて伊佐に帰ってしまおうか、しばらく実家で暮らしながら職を探してみようか……そこまで考えて思いとどまった。     
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