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イナミは甘い自分が嫌になった。伊佐に住む両親やアラタに対して失礼な考え方をしている。伊佐の景色が変わらないと思えたのは、ずっと変わらずその土地に住み、堅実な毎日を積み重ねた人々の慎ましい生活があるからだ。
「ふぅ、しっかりしなきゃね」
自分も今の場所で堅実な毎日を積み重ねて、そしてノジュールのように形になったら何かわかるかもしれない。例え割れて中身が空っぽだとわかったとしても、堆積した想いは別な形に昇華できるから安心して積み重ねていけばいい。
青白い茶わんに一つ二つ、水滴が落ちて、うつわの底に極小のみずたまりを作った。
「え? うそ……」
イナミは今更、ずっと泣きたかったのだということに気づかされた。
徐々にゆがむ視界の中、その、まあるい極小の水たまりごと、アラタと作った茶わんをぎゅっと抱きしめた。
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