うつわの水たまり

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うつわの水たまり

 人を愛することは、好きという感情を重ねていく営みだ。小学2年生のころに拾ったノジュールを見て、松本イナミはそう考えたことがあった。ノジュールのように形になるまで好きを積もらせることができたなら、それはきっと素晴らしい恋愛になるに違いないと信じていた。そのうえ、別れなど来ようものなら、泣きに泣きまくってしまうだろう。自分は立ち直れるのだろうかと、本気で心配していた。 「イタッ!」 「イナミ、もう朝だが! いい加減起きらんね!」  母親の恵子にタオルケットをひったくられ、イナミはベッドから転げ落ちた。  今年のお盆休みの初日は月曜日だった。七年ぶりの実家で迎えた寝起きは最悪で、脳の代わりに石でも詰まっているのではというくらい頭が重い。 「……うぅ、まぶしい……」  カーテンの隙間から差し込む朝陽にまぶたを刺され、テーブルでガタガタ震え出したスマホにも起床を急かされる。起きなければと思うのに何かに引っ張られているように意識が冴えない。それでも何とか目を開けると徐々に視界の焦点が明瞭になっていく。チューハイ缶、ビール缶、おまけに伊佐錦の一升瓶が順序よく見えた。     
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