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時間にルーズな日本人
遅刻、避けたかった。
派遣が遅れる訳にはいかないのだ。
社員より仕事量が多いことに文句はない、扱いが悪い、給与が低いのも仕方ない。
せめて通勤時間くらいストレスから遠ざかりたかった。
時間は恐ろしいくらいに早く過ぎ去っていく……
作業中はあんなにも遅いのに。
見慣れない道、聞いたことのない地名、東西南北もわからなくなった。
スマホを取り出して何度目かの位置確認。
「あっ」
汗で滑った薄く平たいスマホはするりと手の中から零れ落ち、コンクリートの蓋の隙間から下水道へと落ちていった。
時間も道もわからなくなって、力なくしゃがみこんだ。
時間はどれだけ過ぎたのか、座り込む自分を怪訝な顔で学生達が見下ろしている。
視線に耐えかね自転車を引いて公園へと逃げ込む。
しかし、すでに子供連れの親子が公園の主役になっていた。
逃げ込む先はない。
進むしかないのだ。
走る。
(ここはどこだ!)
走る。
例え間に合わなくともせめて会社に着かなければ。
遠くに見えるいつもの通勤電車が唯一の道しるべ。自転車を漕ぐ足は重たい。
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