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本当の僕は、知らない誰かに君を重ねて、一晩だけ身体を開くような男だ。
言えない想いを飲み込み、僕たちは四角い箱の中に吸い込まれて行く。
乾いた音が響き扉が開くと、「後で連絡する」と、彼の広い背中が遠退いていった。
わかった、と言うように片手を上げて、閉じて行く扉の隙間から彼を見送った。
相原学(あいはらまなぶ)とは同期で、初めて話した時から、何だかやけに気が合って親しくなった。お互いのアパートを往き来したり、休日に一緒に出掛けたり。
密かに彼に想いを寄せていた時期もあった。
さらに言ってしまうと、ひょっとしたら、相原も俺が好きなんじゃないかと思った事もある。
何故なら相原は、勘違いしそうになるくらい、距離感が近い。
肩を組んだり、顔を近付けて話したり、興奮ぎみに抱き付いて来たり。
それでも、そうじゃないと言い切れるのは、相原には学生の頃から付き合っていた彼女が居たから。
半年前までは…。
だから、今夜話があると言われて、僕は僅かに…緊張していた。
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