追う者と追われる者

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=金曜日= いつもより緊張して、カウンターに立っている。 ドアが開く度、彼じゃない来客に項垂れて、店長から突つかれた。 「陸、もうちょっとちゃんとしてろよ!」 「すんません。」 自分でも呆れるほど分かりやすいと思う。 こっそりと仕込んでおいたコースターは、シャツのポケットに忍ばせてある。 今日現れるとも限らない相手を待って、落ち着かない気持ちをもて余していた。 今夜は来ないのかもしれない。 そう思い始めた頃、静かにカウンターの席に座ったのは、彼だった。 いつものスーツ姿ではなく、カジュアルな服装で、華奢な身体のラインが妙に色っぽい。 「いらっしゃいませ…。」 上擦りそうになる声を抑え、おしぼりとコースターを置いた。
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