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「ビールを」「ビール、で、いいですか?」
声が重なる。
「あ…ええ。」
驚いたように顔を上げて、少し照れたように彼は笑った。
俺は、できるだけ大人っぽく見えるように微笑んでから、グラスを手に取った。
心拍数は急激に上がっている。丁寧にサーバーからビールを注いで、彼の手元を見た。
この店のルールである印が、彼のコースターには書かれていた。
そうではない客ももちろんいるから、それと分かるように、相手を求めている時はコースターの角にペンで印を付ける。
その為のペンが不自然にならないように、アンケート用紙と一緒にテーブルには置かれているのだ。
「お待たせしました。」
俺はポケットに忍ばせておいたコースターと彼のコースターを何食わぬ顔で取り替えて、ビールをそっと置いた。
「お酒は…あまり召し上がらないのかと思ってました。」
「え?」
不思議そうに俺を見た彼を見つめ返した。
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