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そんな話をしていると、本人が僕達の前にやって来た。
「マオ、他のお客様に絡むな。」
「違うもん、お話してただけだもん。
僕達、仲良くなったんだもん。ね~?」
マオ君は僕の腕を取り、肩に持たれるように寄り添った。すぐにパッと手を離し、カウンターに前のめりになる。
そして彼に向けて、さっきまでとは違う微笑みを浮かべた。
マオ君の表情が何を意味するか、わかる。
二人の会話を邪魔しないように、少し身体の向きを変えて、グラスに口をつけた。コースターをそっと裏返し、これを飲んだら帰ろうと決めた。
「ねぇ、陸。今日はもうすぐ上がりだよね?
この後飲みに行こうよ!それで、今日こそお泊まりしよ!」
「行きませんし、しません。
マオ、何度も言うけど、お前とはないから。
それに俺…今…大切にしたい好きな人、いるから。」
「なにそれ!聞いてない!
ずっといないって言ってたでしょ?
いつ、いつから?誰?もう付き合ってるの?
ヤダ!ヤダヤダ!」
「まだ付き合ってないよ。相手の名前も知らない。
きちんと気持ちも伝えられてない。この後、その時間を作って欲しいって思ってるけど、どうかな…。
その人、待っててくれると良いんだけど。」
マオ君に言っている筈なのに、彼の視線はこちらに向いている。
彼の視線を横顔に感じるけれど、僕には彼の方を見る勇気がない。
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