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迎えた週末、店の前まで行ったものの、僕が扉を開くことはなかった。
きびすを返し、来た道を引き返した。
思い上がりだ、勘違いだ、調子に乗るな、と心の声が僕を制する。
期待していながら、簡単には行動に移す事が出来ずにいた。
俯いたまま徐々に早くなる足音。
「待って!」
後ろから突然掴まれた肩に驚いて、振り返ると、そこにいたのは彼だった。
「今、急いでますか?
少しでいいんです、話せませんか?」
少し上がった息が、彼が僕を追いかけて来たのだと知らせる。
すぐに言葉が出ず、頷くだけで精一杯だった。
彼は、ほっとした表情を浮かべると、僕の手を取って歩き出した。
ここは街中で、行き交う人で溢れている。
「ちょっと待って!…手は…離して…。」
人目が気になって小声で訴えると、この行動が無意識のものだったのか、頬を赤らめて「すみません。つい、焦っちゃって」と小さく笑った。
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