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今、俺の目の前に、彼が座っている。
出勤時間よりも早く店に顔を出して、店内に彼がいない事を確かめ、何をするでもなくふらっと外に出た。
人波の中に、良く似た背中を見つけて、気付いたら追いかけていた。
彼だという確証もないまま、肩を掴んで呼び止めていた。
振り向いた彼は、驚いていた。その後、少し困った様子で、ほんの少しだけ…笑ったように見えた。
俺は、確信していた。
こうして、偶然が重なるのは必然だと。
運命の赤い糸なんて、信じていなかったけれど、今なら信じられる。
俺達は、出会うべくして出会ったのだ。
「こんな事言うと、バカみたいだと思われるかも知れないけど、これって、運命だと思いませんか?」
不思議そうに俺を見る彼の目は、潤んで見える。
「貴方が好きです。
突然こんな事言っても、信用してもらえないかもだけど、店で見かけて気になってました。
居酒屋で、店で見せるのとは違う顔で笑っていて…もっと、他の顔を知りたいと思いました。
…それからは…もう…俺、貴方の事しか考えられなくて…。」
勇気を出して伝えた言葉は、彼に届くだろうか。
「…そう。」
たった一言そう言ったきり、俺達の間に沈黙が流れた。
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