ターンオーバー

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ターンオーバー

 夏休みの課外授業の後、音楽部の練習があった。終わる頃には、私はたまらなくおなかをすかせていた。家までは原付で三十分かかる。高校近くのコンビニで何か買おうかと迷ったが、お財布の中身と相談して我慢することにした。  先週、単車講習をうけたばかりなので、少し慎重に原付を走らせ始めた。  一、二年は、今日で夏期課外の前半が終わった。後は、音楽部の練習に出るだけなので楽だ。入部したての頃は、吹奏楽部をなぜ音楽部と呼ぶのか不思議だったが、所属して一年以上経ち、当たり前になった。うちはとにかく部員が少ない。その分一人一人の音が大きく影響するから、全員が自覚をもって練習にのぞんでいる。  高校の門を出て住宅地を少し進む。すぐに、見渡す限りの田んぼが目に飛び込んできた。遠くに山があり、所々民家もある。しかし、視界にあるのはほとんどが青々と葉を揺らす稲の海原だ。  田舎での暮らしに嫌気がさしてはいるけれど、この道を走るのは好きだった。それほど広い道ではないが見晴らしがよく、他に車があまりないとついスピードが出すぎてしまう。私はこまめにメーターを確認しながら、アクセルを握る手の力を加減する。まだ明るいが気温は少し落ち着いていて、セーラー服の襟元から風が入り込み心地よい。  通学中のお気に入りの時間は、十分足らずで終わる。しばらく自動車関係の会社や、飲食店が並ぶ国道を走る。伊佐市にあるもう一つの公立高校、農林高を通り過ぎた。また少しだけ田んぼの多いエリアに入る。今度は一定間隔で民家や店もある。重留川を渡ると、もうすぐ家に着く気になる。実際は半分をこえただけだ。残りは、木々の間を通る。種類がかわっても田舎道であることにはかわりない。
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