ターンオーバー

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 やっと家に帰ると、玄関に見覚えのない大きなスニーカーがあった。いくつかの蛍光色の絵の具を散らしたような派手な柄で、この辺りの人は選ばない靴だ。  案の定、一階にあるダイニングから関西弁が聞こえてくる。  時々、おとうさんは気まぐれに人を連れ帰る。そういうとき、おかあさんは先に連絡をうけているのだろう。パート先からの帰りに食材を買い込み、いつも以上に腕によりをかけて夕食を用意する。以前は、品数が多いのを喜んでいた。今では見知らぬ相手に気を遣う時間が苦痛になった。空腹でなければ、客が帰るまで自室で過ごしたいくらいだ。  私は、原付の鍵を下駄箱の上の定位置に置く。来訪者の靴を避けて家に上がる。  階段にたどり着いたところで、おかあさんに呼び止められた。 「(ゆい)、おかえり。定住体験の人が来られてるから」  さっきよりも声がよく聞こえる。おとうさんは楽しいようだ。関西のイントネーションに戻っている。 「うん、着替えたら、行く」  ドアの隙間からチラリとみえた腕が白かった。随分背が高そうだ。やはり関西から来た人は違う。どこの出身だろうか。京都なら、訊きたいことがある。  私は階段を駆け上がった。部屋に入るなりセーラー服を脱ぎ捨てる。ベッドの上に畳んでおいてある洗濯物からTシャツを選んで頭から被った。ショートパンツを手に取った後で、ベッドの上に放り出した。  おとうさんは、自分で呼んでおきながら、若い男性が家にいるときの服装にうるさい。おとうさんが連れて帰ってくるのは大概男の人だった。単に、女性の定住体験者には声をかけづらいからだ。私だって、真夏でなければわざわざ露出はしない。タンスから紺のクロップドパンツを出した。お客さんのいるときはクーラーがかかっているので、七分丈でも暑くはないはずだ。
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