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思わず目を閉じ、それから開けると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
「どんなんだよ……これ」
それは、つい今まで僕がいたのとそっくりの世界だった。
ただし、何もかもが左右逆になっている。信号機も、脇のガードレールと民家も、全てが裏返したように逆に配置されていた。
そして何より、それらは、海の水を溶かしこんだように青かった。天地の狭間にあるもの全てが真っ青だ。他の色の存在しない、青色だけの鏡面世界。
眼前に、上條が立っていた。
「じゃあ、私の家に行こうか」
そう言ってすたすたと歩き出す。
この世界には雨は降っていなかった。空はそれこそ青一色で、太陽も雲もない。
上條の家へは、十分ほどで到着した。二階建ての新しそうな家だった。青一色なので分かりづらいが。
「上がって。すぐ右が居間だから」
家の中も青い。濃淡の違いが多少あれど、澄みきったマリンブルー。
僕が居間のソファに座らせてもらうと、一度キッチンに消えた上條が、トレイにティーポットとカップ、それにミルク皿を乗せて持ってきた。
人間二人には紅茶を、子猫にはミルクを振る舞ってくれるということのようだ。
上條がミルク皿を床に置くと、僕の手から降りた子猫が、この世界では際立って白く見えるミルクをなめ始めた。
上條は二人分の紅茶を入れると、カジュアルなデザインのカップを僕と自分の前に置いた。
「ありがとう」
ここでは紅茶も青い。不思議な気分で、僕はカップを傾ける。すがすがしくも鮮やかな、とてもいい香りがした。
「あのさ、上條。ちょっと聞きたいんだけど」
「何? 猫は好きよ」
「いや、違う。もしかして、上條ってこの――青世界?――ここに、自由に出入りできるのか?」
「もちろん、雨で水溜まりができた時だけは。入口がそれしかないんだもの」
「……そして、自分以外の人間もそれができると思ってる?」
「それは、私にできるんだからできるでしょう」
僕は目まいがした。
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