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こんな特殊能力、周囲に騒がれず、その特殊性にも気づかないまま、高校生まで過ごせるものなのか?
僕はこの青世界とやらに入れることがいかに特別なことなのか、丁寧に上條に説明した。
「そういうわけで、猫のかくまい場所にちょうどいいやとか、そういうレベルの話じゃないと思うんだよ」
「そうなのね……。私人にわざわざここのことを話したことがないし、そもそも友達もあまりいないから、全然知らなかったわ」
確かに、たとえば毎朝欠かさず朝食をとるのが当たり前の人間が、「今日は朝食をとったよね」などといちいち人に確認しないだろう。いや、それにしても。
「とにかく、僕は僕が拾った猫のことで、君の特殊能力の厄介になる気はないよ。何とかするから。上條は、この世界を大事にしたほうがいいよ」
「それは、私がいじめられているから言っているの?」
直接的に言葉にされて、僕はうっとのけぞった。
やはりいじめだったのか。
もしかしたらそうかもしれないとは感じていた。しかし、勘違いかもしれないとも思っていた。
僕が上條が受けていた被害から目を背けようとしていたのには、ふたつの理由がある。ひとつは、特に上條と仲良くもないのに「やあ。君、いじめられているんじゃないの?」などとはとても聞けなかったこと。
もうひとつは、そのいじめをしている人物というのが――
「田崎、村山、大野……の三人のあれ、やっぱり……いじめなのか」
三人は、いずれも男子なのだ。そして噂では、田崎が入学式直後に上條につきあえと言い出し、上條がそれを断ったのが原因とかいう話だった。
さすがに暴力を振るわれこそしないものの、持ち物を隠されたり、壊されたり、悪しざまな中傷を流したり。はたから見れば他愛ないかもしれないが、やられる方は深く傷つくそうした行為が繰り返されているという。直接目撃されたことがあまりないので、噂話として聞かれたくらいだったのだが。
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