青世界の上條ミキル

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 高校生になった男子が、徒党を組んで、振られた腹いせに女子に嫌がらせをする。そんなことが自分の通う学校で起きているとは、信じたくなかった。これが理由のふたつ目だ。 「確かに私の青世界は、私がひとりきりになってゆっくりと過ごせる大切な場所ね。あの人たちたまに帰り道でもちょっかい出してくることがあるんだけど、ちょっと撒いて青世界に逃げ込んだら一度も追って来られなかった。さすがにそこまでするつもりがないのかと思ったら、そう、他の人はここに入れないの……」  上條は、ほっとしたような、そして同時に無念そうな面持ちで言った。青世界まで追って来ないのが、あの三人のせめてもの良心だと思っていたのが、裏切られたのだろう。 「上條、僕はここのことを誰にも言わないよ。田崎だけじゃない、家族も含めて誰にも」 「七久保君」  上條に名前を呼ばれて、僕は少し驚いた。もしかしたら名前も知られてないんじゃないかというくらい、これまで交流がなかったからだ。 「お願いがあるの。これから、この猫を、私と一緒にここで、次の飼い主が見つかるまで飼ってもらえないかしら」 「ええ!?」 「毎日……じゃなくてもいいけど、来られる時には、放課後にここに来てほしい。梅雨が終われば、青世界にはなかなか来られなくなるわ。その間に、一緒に引き取り先を探しましょう」  上條が僕の目をまっすぐに見つめた。その瞳が揺れている。 「上條。……怖いんだな?」  長い黒髪を揺らして、静かに上條はうなずいた。 「怖いに決まってるよな。今まで、二ヶ月近くひとりで、男三人につきまとわれて。気づいてやれなくて、……いや、気づいて、追及するチャンスはあったのに……ごめん」  今度は上條が首を横に振る。 「相談できる友達がいないのは、自己責任だと思ってるわ」 「もし、上條以外の人が同じ目に遭っていても、そう思う?」  もう一度首が横に振られた。濡れて重みを持った髪が肩の上で引きずられる。 「僕もそう思う。だから……明日からも、ここに入れてくれるか?」  今度は、首が縦に振られて、乾いている前髪がふわっと浮いた。
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