青世界の上條ミキル

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 それから一週間ほど、僕と上條は放課後に、青世界で猫の面倒を見ていた。  子猫をかくまった上條の家はドアや窓に鍵をかけ、大きな猫小屋とした。僕らが家に入ってくると、子猫はぱたぱたと寄ってくる。  幸い、雨は毎日のように降っていたので、出入り口には困らなかった。  青世界へは、上條がいれば、どこの水溜まりからでも入ることができる。僕は上條が一緒にいなければ、出ることはできない。元の世界に戻る時は、二人で適当な水溜まりに入る必要があった。  日曜日にも、上條は僕を誘って青世界に入っていく。彼女は休日でも制服だった。おそらくそれは、最も上條に似合う服装ではあるだろう。 「私は話題が豊富な人間ではないし、猫と七久保君の相手が同時にできるほど器用ではないから、何か本でも読んでいていいわよ」  上條がそう言ってくれたので、お言葉に甘えて家の本棚を拝見した。  父親の部屋には大きな本棚があり、難しそうなハードカバーがいくつも並んでいる。ためしに手に取っていようと思ったが、なぜか本棚から取り出すことができなかった。現実世界とまったく同じようにはいかないのだろう。この青世界は夢でも幻でもないので、現実世界というのも妙な呼び方ではあるが、上條はそう呼んでいた。  それは、家の外に関しても同じだった。人っ子一人いない、動物も虫もいない、真っ青な世界。僕は自分の家へ行ってみようと思ったのだが、現実世界そっくりだと思った青世界は、ところどころで道路の断絶や行き止まりがあって、思うように散策できなかった。  電車も動いていないし、青世界の自転車は車輪が回転せずただの置物で、乗り物という乗り物が動かない。移動手段は徒歩しかなく、それも先に述べたように限界がある。ここから高校までは歩いていけるのだが、さらに先には道がなかった。
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