雨は湿気と憂鬱を運ぶ

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注意が年月を重ねれば、それは才能となって相手の感情を声から読み取れるようになった。 しかし、私は私の声を無視してしまった。 突然、スイングドアがゆっくりとスライドする音が聞こえた。 ローファーの足音、ポケットに入れたスマホのキーホルダーが揺れる音、気持ちを整えるための規則的な呼吸。 注意深く階段を下るような足の運び方は、それだけで緊張しているのが分かった。 妹が来た。 お姉ちゃんの顔を見る。 向こうも私の顔を見ようとしているのだろうけど、やや焦点が合っていない。 いつものことだ。 姉は目が見えない。 その代わり、耳がとても良い。 きっと、私が緊張していることも息遣いから伝わってしまっているのだろう。 ベッドに横たわっている姉の横に立ち、元気?と声尾をかけた。 「そうね」 そっけなく応える。 姉の腕につながれた点滴のチューブを見て、最近問題になった異物混入のニュースを思い出す。 もし仮にそうならば、犯人は誰なのだろう、と全く場違いなことを考えていた。 「ねえ、退院はいつになりそうなの?」 「まだ知らされてないわ」 当たり障りのない質問に対して、向こうも同じように返してきた。 知らないのも無理はないだろう。 なにせ入院したのはほんの3日前のことだから。 その後もわざわざ聞くまでもないことを聞くことで何とか沈黙を避けようとしたが、なんだかうまく会話ができない。 確かにお姉ちゃんとは仲が良かったわけではないが、悪かったわけでもない。 それは、同じクラスだがあまり会話をしたことのない人との関係に似ていた。 「お姉ちゃんは、その、ねえ…」 頭の中に言葉が浮かばなくなり、遂に話題がなくなった。 話したいことはあったような気がするが、目の前の力なく横たわる姉に何を話せばいいのか分からなくなってしまった。
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