雨は湿気と憂鬱を運ぶ

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外の雨音が聞こえる。 「雨か…」 お姉ちゃんが呟く。 雨だねえ、と私も続いて呟いたが、そこで話題を思いついた。 「お姉ちゃんのあれ、目が見えなかったからそういったんだよね?」 「うん」 何の話をしているのか伝わったようだ。 「もう十年以上前のことだけど、私が大泣きしたの。あれ以来お姉ちゃんと一度も喧嘩していないからとっても印象に残ってる」 「私も、あなたが来るからちょうどその時のことを思い返していたところよ」 そうか、なんか思い出らしいことってそのことぐらいだよね、と二人で納得したように頷いた。 「あの時にはもう見えていなかったの?」 「まだぼんやりと周りが見えていたわ。もちろん、雨の色もね」 「あれ、そうだったの?雨に色がないというのは水の透過性を知っていたからではなくて、本当に色が見えなかったからなのだと思ってた」 お姉ちゃんは控えめに手を口に近づけて笑う。 「別に色が見えなかったとかじゃないわ。それに、あの時はすでに理科を習っていたから雨に色がない理由を知っていたからね。だからね、私があなたに強く当たったのは、単に嫉妬していたからよ」 嫉妬?思わぬ言葉が出てきた。 「なんで嫉妬したの?」 お姉ちゃんは、そうねえと言いながら口元の手を下ろし、窓の外を見つめた。 私の質問には応えなかった。 雨は相変わらず降り続けている。 もう帰ったら?と気を遣ったのか、風邪をひくと大変だしね、と言われた。 私は自分の質問に応えてくれなかったお姉ちゃんに少しだけむっとした。 せっかく絵具事件の真相が解明しようとしているのに。 そして、私がそれを知りたがっていることをお姉ちゃんは分かっているのだ。 「私はね、結局、お姉ちゃんでいたかったの」 唐突に話し始めたお姉ちゃんに顔を向ける。 「今はもうその資格がないけどね」 痛々しく深く刻まれた手首の傷に目を落とす。 大学入学を機に一人暮らしを始めたお姉ちゃんとはほとんど顔を合せなかったため、どういった生活をしているのか分からなかった。なので、病院からお姉ちゃんがオーバードーズで倒れたのを知らされたのだ。そして、心の病気にかかっていたこともその時初めて知ったのだ。
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