番外編① #キスの日

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 とにもかくにもこの部屋は。一体誰がどんな目的で設けた部屋なのか。  ほとんど何の気負いもなく床に寝転ぶレシカにならい、同じ体勢を取ったジラは、地面の感触が砂っぽくも埃っぽくもないことに驚いた。清潔で、これまで使われた様子がまるでない。こんなことがあり得るものなのか。  疑心の暗がりから今にも襲い掛かってきそうな鬼は、想像もつかないほど恐ろしい顔をしていそうで。一体これは何なのか。罠か、厭がらせか、試験か、試練か、もっと現実的に裕福な家の娘を狙った誘拐を疑った方が良いのかもしれないが、仮にそうだとするなら、何の装飾性もない壁に貼られた一枚の張り紙、見るべきものがなさすぎて何十回も見上げてはいるものの、何を意図するものかまったく理解できない、あれをどう解釈すれば良いというのか。  『キスをしなければ出られない部屋』? ――何だそれは! 「誰か、助けに来てくれるかしら……」 「それはそうでしょう」  同意を求めるようでも、単に空中に放り出すようでもあるレシカの言葉に、ジラは相槌だけを返し、その後を呑み込んだ。 番外編 #キスの日  FINIS
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