番外編② 女の愛と生涯

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「気候の良いところで療養すれば、良くなる。日々、医学は進歩しているし」  医者はそんなこと言いはしなかったけれど。  高潔、誠実、美徳的振る舞いは、現実とはいつも相性が悪い。  こうした場面に相応しい正しい言葉など、継ぎ接ぎでも繕うことができず。 「もっと良い医者を見つけるから」 「ありがとう。アル。……ごめんなさい」 「どうして。君が、謝る?」 「あなたに、そんなかなしそうな顔を、させて」 「…………」  善も正直も、中途半端な僕は、彼女の思慮深さにいつだって追いつけない。 「わたしは大丈夫。わかっていたことなの。アンジェリカのお医者さまも、あなたが言うほど悪いものではないでしょう? ……どうか、これ以上苦しまないで、アル」  愛の寄越す苦しみなんて、何ほどのことはない。甘美な。  そうだろう? ――ねえ。 「……ごめん」 「笑って。あなたの今日が、今からでも、素晴らしい日になりますように。あいしているわ。アル」  隙なく完璧な笑顔の彼女の前で、僕は麻酔針を打たれたように痺れる唇を曲げ、応える。  ああ、だめだな、役者が、違うようだ。
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