111人が本棚に入れています
本棚に追加
レシカ・カネーレ。生まれ育った街では歌姫と、「天使」と、そう呼ばれている、僕の婚約者。
軽やかで甘く、透明な話声。
難病に侵された、全身が造形物のようにか弱く美しい、その一片に過ぎない指先の、弦も弾けなさげなつめたさを、握り締めて息を詰める。
歌を響かせる、ためだけの、
天井の高い、しんと澄み切った静寂の鳴る、
わざわざそう作ったのだとしたら、あまりに残酷ではないか、と、神に問いかけたくもなる、彼女の空洞は、
しかし僕の中に封じ込められた詩をも、良く拾いあげ、実際以上に清明に詠じる。
「僕の方こそ。愛しているよレーシィ、美しい、僕の姫」
だから僕は彼女に恋をする。恋をした。
最初のコメントを投稿しよう!