番外編② 女の愛と生涯

5/62
前へ
/495ページ
次へ
 レシカ・カネーレ。生まれ育った街では歌姫と、「天使」と、そう呼ばれている、僕の婚約者。  軽やかで甘く、透明な話声。  難病に侵された、全身が造形物のようにか弱く美しい、その一片に過ぎない指先の、弦も弾けなさげなつめたさを、握り締めて息を詰める。  歌を響かせる、ためだけの、  天井の高い、しんと澄み切った静寂の鳴る、  わざわざそう作ったのだとしたら、あまりに残酷ではないか、と、神に問いかけたくもなる、彼女の空洞は、  しかし僕の中に封じ込められた詩をも、良く拾いあげ、実際以上に清明に詠じる。 「僕の方こそ。愛しているよレーシィ、美しい、僕の姫」  だから僕は彼女に恋をする。恋をした。
/495ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加