番外編② 女の愛と生涯

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 らららら、と息継ぎのように、『セビリャの理髪師』の『私は街の何でも屋』のアリアを歌いながら、多忙な日々を泳ぎ切った。  歌うことで、僕の心は軽やかに宙に浮き、輝く雲まで飛んで行くことができる。  そこから見下ろす現実は、朗らかに色が和らいで、優しかった。  だから僕にとって、旋律が二の次とは言わないが、音楽を聴く際に何より重要なのは詞だった。  そこに共感を乗せられるか。共感できなくても、背伸びして自分を添わせたいと思えるほど、言葉に美しさを感じられれば、それでも構わない。  服を選ぶようにメロディを纏うことを覚えた。  恋の甘さも人生の苦さも、激情の、癖になりそうな酩酊も。  僕は歌に教えてもらった。  個性豊かな役になりきるアリアも、切々と内面を吐露する歌曲も、どちらも大好きだった。  そして僕は、賢く、強く、感性豊かな少年に育った。  というのは、どうやら勘違いだったらしい。  その頃の僕は、同年代のこどもなど、ほとんどが、やかましく怠惰な、不感症の猿だと見下していた。  その猿達に、僕は虐められた。
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