番外編② 女の愛と生涯

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 ギムナジウムで過ごした八年間のうち、特に前半部には、屈辱と孤独の思い出が常に付き纏う。  きっかけが何だったかは、覚えていない。  授業で僕が気に入りの詩を暗唱すると、嗤い声の波が広がった。歌を歌えば、白けて乾いた空気が音楽室を埋めた。  そんなことばかりが続けざまに起こって、やがて孤立と暴力が始まった。  集団の猿達は、僕の名誉、自尊心、身体を力づくで痛めつけることで、己達は強いのだと示そうとした。  人に言えないような目に遭わされたこともある。  その痛覚の中で呑気に歌っていられるほどには、僕はどうやら、特別なこどもではなかったらしい。  今思えば、無理からぬ部分もあった。  心象表現というのは、まだ味方とわからない相手の元へ、丸腰どころか急所を差し出しながら歩いてゆくようなものだ。  己の好きなもの、美しいと思うもの、けして穢されたくないと思うものを、臭み消しもできないままひけらかせば、そんなもの、群衆の中においては、ただの弱者。悪戯で泥をかけられても文句は言えない。  自分が間違っていたとは思わない。  ただ僕は、アルノルト・フォン・クラリクとして、弱いまま生きてゆくわけにはいかなかった。
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