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出逢わなければ良かったと思ったことはない。そう。一度も。僕が僕として生まれてくることができた幸運に感謝しているのと、それは同じ強さで。
制服を脱いで国立大学の法学部に進むと、粗野な鰯の群れの中に理知的な人間を見つけることも、悪友と呼べるような存在を作ることもできて、随分と呼吸が楽になった。
寮生活ではなくなったので、学業の合間にオペラ座や美術館に行くことができるようになったのも、大きい。
女性達とも初めて付き合った。
柔らかげでそれぞれ癖のある気性には男よりも好感を持てたが、生涯の伴侶にしたいと思えるような人との出逢いは得られなかった。
ある年上の女性に、あなたのそのエリート意識は自信のなさの裏返しだと言われ、自分の中身を看破されることに名状できない気持ちの良さを感じた際には、一瞬運命を意識したけれど、残念ながら彼女の方にはまるで脈がなかった。
がっかりはしたけれど、まあけれど人生とはこんなものか、という淡泊な諦念が自分の中を占めていて、そちらの方がまずいな、と思わされた。馬鹿の物真似ばかり巧くなって、気が付けば、僕は随分人間から遠ざかってしまったらしい。
心の中で緞帳を下ろすと、その女性のこともあっという間に綺麗なだけの記憶に変わった。
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