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自分が掴めなくて困る、持て余す、ということではない。
だが考えてみれば、水落は自分の感情を自分でわかっていないことが時折あるように思う。そもそも罪悪感や良心が自分にはないと思い込んでいたくらいだから。そんなものは人を押し退けて生きていく上で邪魔だったのだろう。だからないものとして、見ないふりをしてきた。
そのため今になって、無視してきた人間的な感情と向き合う羽目になり、彼自身混乱しているように見える。
「そういう人と交流するのは難しいかもしれないけど、深く考えないほうがいいかな。考えてもあまり意味を成さない」
「そうですね」
「対処に困ってた?」
「…はい」
正直にうなずくと苦笑された。
「水落さんは魅力的な人だと思うよ。俺の恋人もそう言う」
「えっ。志賀さんの恋人…は水落さんと知り合いなんですか?」
恋人がいるという事実は、まあいそうだから置いておくとして。
地検に勤めている女性職員だろうか。そういう職種でもないと共通の知り合いにならないだろう。
「そうだね。一回会っただけみたいだけど」
「女性にモテますからね。でもそういうのを恋人から聞いて嫉妬しないんですか?」
「もちろん嫉妬するよ」
微笑みながら断言された。感情の読めない人だ。でも水落のような怖さがない。ミステリアスな印象だが、それでも柔和な物腰と微笑みを絶やさないため好感度が高い。
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