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「おっとりしてて和むよ。癒されるっていうか」 「喋り方がのんびりしているってことですよね。よく波瀬さんにも注意されます。イライラするそうで」 「僕はイライラしないよ。そういう人もいるかもしれないけど、直すことないんじゃないかな。宝来くんの魅力だと思う」  やけに持ち上げてくれてこそばゆい。でもこうしたほうがいいとか直すべきだとか言われるよりはずっと嬉しい。  以前水落にも訊いたことがある。こんな自分の口調をどう思うか。仕事に不利なのは知っているけど、それ以外のところでも人に不愉快に思われないかと。そうしたらこう返ってきた。 『え、宝来くんのその喋りでイライラするって言われたら俺どうすんの。すげえイライラされてるけど。でも仕方ないし。相手もそのうち慣れてくれるよ。あー慣れなくて怒ってるのか。うんもう放っておけば?』  全然参考にならなかった。  適当でいい加減だった。  でも、まあこの人に比べたらましか、と笑えた。気が楽になったのは確かだ。  どう考えたって、それが魅力だよ、と言ってくれるほうが嬉しいはずなのに。  あ、また水落のことを考えてしまった。どれだけ好きなんだ。どれだけ恋しいんだ。頭がおかしいのは水落じゃなくて宝来のほうだ。 「じゃあまた一緒に行けることがあればいいね。そうしたら色々教えてあげるからさ」  だから吉葉が笑顔でそう言ってくれたのに、それを『嬉しい』とか『彼と行きたい』とは思えなかった。
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