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「そういう話、水落さんに訊かないの?」 「否定されましたけど。どこからどこまで嘘か本当かわからないので」 「信じてあげてよ。君にはきっと嘘はつかない」  何故わかる。嘘や隠蔽や工作ばかりの男なのに。  信じたいけど。信じたいけど、まだ完全にできない。  だからこそ上手くいかないのだろうか。 「君たちは深い話をまったくしていないんだね。お互いをまだ誤解したままなんじゃないの?」  そして鋭いことを言われてしまう。 「誤解、ですか?」 「いや、水落さんのほうは君のことをあらかた読んでいるだろうね。でも君がまだ水落さんのことを大部分誤解している気がする。友達がいるかどうかも知らない。暴力団との繋がりも知らない。そして自分のどこが気に入られているかさえ知らない」 「そこまで親しくありませんから」 「君がそう言い切るなら構わないよ。俺は何も言わない」  水落と違って志賀は流してくれる。だから楽だ。曖昧なまま、有耶無耶なままで通させてくれる。  何というか、掴みどころのない人だ。何を考えているのかさっぱりわからない。  しかし感情の波がない分、人と喧嘩にもならないだろう。  つまり恋人とも水落と宝来がするような喧嘩にはならないはずだ。
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