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緊張しつつ九階に向かった。水落にファイルを届けなければいけない。
いませんように。外出していますように。それなら吉葉に託してさっさと帰るから。
どきどきしながらそっとドアを開けて、その隙間から中を覗く。
そこには先日見かけた何人かの特捜部の面子があった。吉葉の姿もある。
しかし水落はいなかった。
良かった。
いや、そこで安心してはいけないだろう。恋人に会えなかった、残念だ、と思うべきだろう。
ほっとしていると、こちらに気づいた吉葉と目が合う。宝来のほうまで歩み寄ってくれる。
「宝来くんどうしたの? あ、わざわざ資料持ってきてくれたんだ?」
「そうです。波瀬さんに頼まれて。水落さんに渡しておいてもらえますか?」
そう言ってファイルの束を手渡す。
しかし吉葉はどこか表情が晴れなかった。
「…どうかしましたか?」
「いや…水落さんに怒られて」
え。吉葉が怒られた? 仕事上でミスでもしたのだろうか。というよりそもそも、水落が怒るというのが意外だった。彼が本気で怒るところは見たことがない。
だが仕事ともなればそうは言っていられないものなのかもしれない。重要度、機密度の高い仕事をしているのだから。
「そうなんですか。仕事のことですか?」
「君のことで」
え?
再度耳を疑った。
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