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「そうでしょうか。適当に持ち上げているようには見えませんでした。仕事ぶりについても尊敬しているようだったし、水落さんのことは好きだと言ってましたよ」 「あいつに好かれても全然嬉しくねえ!」 「というか水落さんって人気者らしいですね?」  宝来の問いかけに水落は意味がわからないというように怪訝な顔になった。 「人気者?」 「特捜部で」 「俺が?」 「違うんですか?」 「初耳だけど」  じゃあやはり吉葉が誇張して言っただけなのか。もしくは思い込みで。 「パン食べられてるんでしょう?」 「人気者だとパン食われんの?」 「嫌いな人のは食べないと思いますよ」 「あ、じゃあ俺人気者。しょっちゅう誰かに食われてる」 「それたかられてますよね」 「うん、たかられてる。え、いじめ?」  適当すぎる。何も考えていない時と考えすぎの時の差が激しい。つまり偏っている。 「じゃあ人気者じゃなかったという結論で。僕はこれで帰りますね」 「えーもう行くの。あ、明日昼に会おう」 「また会うんですか」 「恋人でしょ。何そのうんざりした顔。すげえ傷つくんだけど」 「すみません。顔に出やすくて。それじゃまた明日」  ぐちぐち言われて足止めを食らうと面倒なことになるので、そそくさとその場を去る。部屋を出て廊下を歩いているだけで携帯が何度もピロピロと鳴った。  見るとまた何件もメッセージを受信している。あーまたこの生活が再開したのか、と通知をバイブレーションに切り替える。中身は今読まない。もうこの一晩で充分恥ずかしい思いをした。お腹いっぱいだからだ。  でもそれをまた嬉しいと思っているのだ。そんな自分は間違いなくどうかしている。
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