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「いいえ。人によりますが大概の人は自分の話を人に聴いてもらいたい、知ってもらいたいという感情があります。自己顕示欲です。自分を受け入れてもらいたい、認めてもらいたいという感情、承認欲求があります」
「まあ、そういう人もいるよね」
「そういう人が大半です。隠しまくる人は少数派です」
「そうなの? 隠したくないの?」
「隠す意味がないでしょう。機密ならともかく。やましいことや人から悪評をもらうことも言いたくないでしょう。でもそれ以外は普通隠しません」
「そうなんだ。俺は極力話したくないけど」
訊かれたら答えるし、支障のないものについて明かすことはやぶさかじゃない。
でも率先して自分をひけらかす必要ってある?
「隠さないと負けると思うからですか?」
そして痛いところを突かれた。
「そうだね。そう思うのかも」
「つまり自己保身ですね。そして宝来のことは根掘り葉掘り訊く。知らないでいることが不安だから」
「そうだね。その通りだ」
「でも宝来に勝とうとしているわけじゃないでしょう?」
宝来くんに勝とうと? していない。
していないけど。
「…自分をひけらかすことで嫌われるかもしれないという恐れはある」
その言葉に波瀬は驚いたが、すぐにほっとしたように苦笑した。
「まさかそういう理由だとは思いませんでした」
水落さんでもそんな感情があるとは思わなかった。
そういうふうに聞こえた。
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