11

2/50
5386人が本棚に入れています
本棚に追加
/664ページ
 五月ともなると、夜になっても気温が下がらない日が多くなってきた。  自宅最寄り駅の改札を出て、外気に触れたところで風が吹きつけてきたけど、冷たさはなくて心地いいくらいだ。  今日は水落と会う約束をしている日だが、張り込みの交代時間がずれ込んで、終わってみれば九時半に差しかかっていた。  待ち合わせの場所も時間も決めていないままで、仕事が終わったら連絡する手筈になっていたので、その時点で宝来のほうからメールをした。『今仕事が終わりました』と。すると『今どこ? そっちに行く』と返ってきた。  だから『霞が関駅です』と返すと、宝来の自宅の最寄り駅まで向かうとのことだった。霞が関のほうが待ち合わせやすいと思っていたが、彼も出先にいるのかもしれない。  はあ、と息をついた。  頭の中がごちゃごちゃして乱雑なまま、まったく整理できていない。  昨日の修羅場から冷静になるとやはり反省した。嫉妬心丸出しの自分が愚かだったと思うし、何よりまた喧嘩してしまったことのダメージが大きかった。  あれくらい何でもなかったのに。  同性相手ならいくら綺麗な顔をしていても普通は疑うことをしないのだろう。  それに相手は同性愛者ではないかもしれない。つまり水落がいくら迫ったところで応えない可能性が高い。
/664ページ

最初のコメントを投稿しよう!