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「いいニュースだぞ、喜べ」
そんな声が聞こえてきても起きられないのは眠いからだ。
そして喜ぶようなニュースがないことを知っているからだ。
だって最近どんないいことがあった?
世の中は不穏で懐疑的で邪推に満ちたニュースで溢れているよ。
その中には自分が関わる事件もあるし、関わったものの警察に掻っ攫われたり、国税に抜かれたりして手のひらからするりと抜けてしまった獲物もある。
そういうのはもういい。気にしない。だってすぐ次の獲物がやってくるから。
こんにちは、ごきげんいかが?
僕は10億だよ。
いいや、僕は100億だよ。
驚くなよ、僕は1000億だよ。
さあ捕まえてごらん。鬼ごっこをしよう。早く追いついた者勝ちだね。ほら、急がないと逃げてしまうよ。みんなすぐにいなくなってしまうからね。ほら、早く早く。
あ、とうとうおかしくなってきた。夢うつつの脳内で札束が鬼ごっこしてるんだけど。
「何だ、気にならないのか?」
意外そうに呟く江幡に対し、顔にかけたタオル越しに返事をする。
「どうせ俺が喜ぶニュースじゃないと思うんで」
「逆におまえの喜ぶニュースってのは何だ?」
そう問われたら、確かに思い浮かばない。
いや、考えてみよう。
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