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いつまでもそうやって人と壁を作って生きていけばいい。その代わりこっちのことを必要以上に知ろうとしないでほしい。過剰な心配もやめてほしい。過剰な嫉妬もやめてほしい。
「知らないままでいいじゃないですか。水落さんが嫌な思いをするかもしれないですし」
「え、俺が知ったら嫌な思いすることある? 何何?」
「……」
嫌味が全然通じていない。もう諦めた。
いつもこんな調子の会話だから結局水落のことは何も知れないまま、進展がなく終わる。会話の主導権が握れないし、とにかく口が達者なので絶対に彼の不利な方向に話が進められないように仕組まれている。
つまりそれは対等でもなんでもなくて、お互いの本質に触れることもなくて、心が開けない。心が休まらない。
会話が作為的だから警戒もするし、少しでも口を滑らせると猛追撃に遭い、とにかく疲れる。
普通、恋人同士は会っているだけで楽しいとか気が休まるとかそういうものがあるんじゃないだろうか。
水落と会うのは楽しい。会えて嬉しいと思うし、胸も高鳴る。
でも、友人のような気安さはない。
水落は宝来に毎日好きだと送ってくるからにはそうなのだろうけど、こうして会っていて楽しいのだろうか。
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