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 今夜は七海家ですき焼き鍋をつつくこととなった。多月が高級和牛をもらったらしく、それを譲ってくれたためだ。  急なことなので仕事復帰した母は顧客回りがあって遅れての参加となり、先に始める手筈となった。  そうなればやはり七海一人で支度をしなければならず、帰宅後にげんなりしつつキッチンに立っていた。  しかし鍋物はそれでも下準備が簡単なので楽といえば楽だ。  いつもは多月がいると味付け等々に大変気を遣うが、すき焼きともなれば味付けの工夫の仕様がない。至ってシンプルなので具材を煮たら出来上がり、だ。 「やっぱり官僚って高級品もらえるんっすね。実家に渡さなくていいんですか?」 「実家はこれどころではない贈答品で溢れているからね。逆に捌くのが大変なくらいだよ。食品は賞味期限があるから。だから大半を人に譲っているんだよ」 「ま、そうなりますよね。大家族でもない限り肉の塊とかカニ丸ごととかもらっても処理しきれないですもんね」  多月と卓実はソファでくつろいでいるが、いつも実の兄弟のように仲がいい。  正直、卓実は兄の七海よりも多月のほうが気が合うように見える。七海がちょっとしたことでもむっとして反撃するからだろうか。それとは正反対に多月は多少の失言もまったく意に介さずにこやかに受け止めてくれるからだろうか。  七海に兄としての威厳は欠片もないので、頼りがいと包容力のある多月が兄らしくても仕方ない。
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