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すき焼きを囲み、歓談した後、多月が帰宅するというので彼を駅まで送っていくことにした。遠慮されたけど、二人きりで話がしたかったから同伴させてもらった。
実家にいる時までは運転手付きの自家用車が送迎してくれていたが、今は電車での移動をメインとしている。この東京において未だに電車をはじめとする公共交通機関に乗り慣れていない奇特な人間であり、利用するのを楽しんでいる。子供か、とつっこみたくなるがそこはスルーしている。もういちいちこのお坊ちゃんにつっこんでいたらきりがない。
「僕たちの関係を卓実くんには隠しておきたいんだよね?」
住宅街の夜道を歩きながら隣の多月が問いかけてきたので、うなずく。
「極力そうしたいです。でももう時間の問題ですね。ていうか既にバレてますよね…」
「そうだね。僕も君への気持ちが隠しきれていないんだと思うし、君も前よりは僕への風当たりが弱まったから」
「課長は隠す気がまったくないですよね? 何かもう普通に口説き文句を入れてくるからこっちも誤魔化しようがないですよ」
「はは。自分の気持ちに嘘がつけないからね」
「いやいや、普段は上手に本心を隠して生きてますよね?」
「そんなこともない。職場でも僕らが親しいって思われているから君に言づけが頼まれたんじゃないの」
ああそうか。そういうことか。宮沢にも怪しまれているし、つまりそのうちバレるということか。
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