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「卓実だけならまだしも、職場でっていうのはまずいですよね…」
「そうだろうけど、まあ僕たちもそんなに長く同じ部署にいられるわけじゃないから」
そうだった。いつ異動があるかわからないし、多月が転職するとしたらそれで終わる。
「…あの。課長は転職予定があるんですか?」
おずおずと問うと微笑みが返ってきた。
「どうかな。まだ何も決まっていない」
それを聞くとほっとする。まるで猶予期間を延長してもらえたかのような気持ちになる。
「ただ色んな人と会うたびに、次は君がトップを目指すのかと問われるし、期待をかけられていることは伝わってくる」
「それはそうですね。これまでは父親がその座にいたので誰も表立って言いませんでしたが、辞職したとあっては未来の話をされても当然だと思います」
「一番堪えたのが、亡き父も僕にそれを目指してほしかったという話を聞いたことだ」
「……」
堪えた、と言う多月の気持ちはわかる。
望んでいない道、強制された道だと思っていたものが、実は実父も同じ希望があったということはつまり、実父が生きていたとしてもいずれその道を進む羽目になっていたかもしれないと思うからだろう。
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