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これで七海に報告ができる。
君が言ってくれたから母に会えたよ。驚いた顔をしていたよ。それ以上の会話はしていないけど、それで充分だと思う。淡白そうに見える? そう言われると思った。でもね、思い出したよ。母と別れたあの日、僕はこれ以上ないくらい泣いたんだ。
別れがつらかったから泣いたんだろうって思っていたけど、その時のことを思い出してわかった。
僕は寂しくて泣いたんだ。
一人になってしまったと自覚して泣いたんだ。
あの時失ってしまったものは、もう取り戻せないと思っていた。
でも今大切なものを得られたから、失ったものがなくても大丈夫。
だから子供の時に満たされていないものを今どうにかする必要はないんだよ。
その時の古傷を持ったまま、僕は新しく生まれ変わっている。
死のうとしたあの日に僕は一度死んだんだね。
だから今の自分は羽化したように新しくて、何もかもが新鮮で、朝起きて呼吸をするだけで歓びを感じられる。
生きていく力が僕にはもうある。
今後どんな道を選んでも、古傷に胸を抉られることなく、強く生きていける。
それを今日気づけたんだ。
ありがとう。僕のことを愛してくれて。傍にいてくれて。僕と生きてくれて。
あとね、もう一つ気づいたことがあるよ。指輪を選ぶカップルを見たんだ。とても幸せそうだった。
きっと僕たちもあんな空気になっているんだろうね。
だからみんなに気づかれているんじゃないかな。
END.
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