0人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく見つめ合った後御堂さんが立ち上がって去っていった。鮮やかな青いリボンと長いまっすぐな黒髪を風に遊ばせながら歩く姿に、強烈な羨ましさを覚えた。
正体不明の焦りと気持ち悪さから志貴の名前を呼んで早く教室に帰ろうと促しても、上の空な空返事だった。
午後一の授業で御堂さんが倒れた。積極的に介抱しようとする志貴を拒絶するように廊下に出て行ったあとすぐに倒れるような音がした。志貴の親切を踏みにじった罰じゃない、なんて頭の中で毒づいていると目の前の席の志貴が廊下に駆け出して行った。御堂さんの名前を何度も呼んでいるのが聞こえた。ぐわんぐわんと頭の中をかき混ぜられるような感覚がする。頭が痛い。咲耶、咲耶、咲耶。一年前までは別のクラスで知りもしなかった人の名前。なのに私の中の柔らかいところを抉るような響きを持っていた。
私は志貴に授業が終わったことを伝えるために保健室まで来ていた。あの後志貴は結局ずっと御堂さんについていたようで、教室には帰ってこなかった。
「気が付いた? 熱は無いようだったから貧血かな。廊下で倒れたんだよ」
「運んでくれたんですか」
扉を開けようとした瞬間に志貴の声が聞こえてきて、咄嗟に動きを急停止させて息さえ止めた。扉や窓に一番近いベッドを使っているのか、声は問題なくこちらまで届いた。
最初のコメントを投稿しよう!