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足をもつれさせながら何とかあの場から逃げ出した私は、荒いままの息を整えられないままどこかの廊下にいて、気が付けば短く切り揃えた髪に触れていた。
また急に現れた人間に私の世界が壊されてしまった。あの子はいつも私の欲しいものを全部持っているくせに、まだ持っていく。
でも、おかしいな。私だって御堂さんとはクラス替えしてから出会ったはずなのに。
「自分の裕福さを知らない事も、知ろうとしない事も君の罪だ」
どこか懐かしい渋くて大人な志貴の声が耳を打つ。思い出される刺されたお腹の痛みと血、切り取られた無残な髪の毛の幻が目の前に散っていく。志貴の手には私があの子から奪ったも同然な青いリボンが握られていた。
初恋のちぎれる音を聞いたのは二度目だった。
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