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その日の夢には全てに色がついていた。色味がないと味気ないな、などと考えていた私は今いっそのこと色なんてついていなければこんな気持ちにならなくて済んだのにと考えてしまっていた。
「おとうさま、おかあさま」
小さな”私”が夕暮れの薄闇の中で血の海の中に浮かんでいる。珍しく夢の中の私と融合していない私の目の前で、幼い”私”が動かない父と母を揺するのに合わせて厚手の着物が血液を含んで重たくゆらゆらしている。二人は返事を返さず、半開きの戸から雪が吹き込む冷たい床に転がっている。
「おとうさま、おかあさま」
霜焼けた紅葉の手をさすりながら父と母を起こそうと懸命な”私”を、何もできない私は第三者の視点でずっと見つめていた。
「要りませんと言ったではありませんか」
自分の口から出た投げつけるような声に、はっと驚いて我に返った。今度はどうやらいつもと同じ一人称視点の夢で、世界は変わらず白と黒でできている。
”私”は暗い木造の建物の廊下で掃除の途中といった様子だった。天気が良くない為に薄暗い。締め切った窓の隙間から冷たい風が入り込んできているから、きっと秋か冬だろうと思った。
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