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「良いリボンをつけているのね」
顔を声の方へ向ければ、上等な着物をきっちりと着て上掛けを羽織っているお嬢様が立ってこちらを見ていた。視線は刺々しく、嫉妬の炎を隠す気もなくちらつかせている。理由は明白なもので、自分の婚約者である男が私に贈ったこの青いリボンである。お嬢様としては気分が良い訳がなく、私はこれを頂いて身に着けた日からたびたびお嬢様に絡まれていた。
”私”は聞こえない程度に溜息をついて、料理の手を一旦休めてお嬢様の方を振り向いた。
「あなたのお給金で買ったの?」
「……頂きものです」
「そうよね。あの方からでしょ? 志貴さま、とってもあなたの事気に入っているもの」
そうですね、なんて軽い相槌は口が裂けても打てなかった。
「いいな、とっても綺麗な真っ青。あなたのまっすぐな長い黒髪に似合ってる。ねえ、どうしたらそんな綺麗なまっすぐの髪になれるの?」
「生まれつきですので……」
「肌も真っ白でお顔も綺麗。志貴さまもまっすぐな黒髪がお好きだって言ってたの。あたしが欲しいもの、全部持ってるのね。それなら、そのリボンくらい、私にくれてもいいんじゃない?」
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