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お嬢様の声はか細く震えて目には涙の膜が張っていた。どうしても気持ちが抑えきれなくて溢れ出してしまったけれども自分ではもうどうしようもないのだと身勝手にも訴えているのだ。
これをお嬢様に渡すことを考えたとき、私がこのリボンを身に着けるのを毎回この屋敷を訪れるたびに確認しては笑って喜ぶ彼に申し訳ない気持ちがあった。何より、何だかんだ言っても初めて手にした美しいものに愛着が湧いていたから、わざわざいつも身に着けていたのだ。
「……ですが」
「お父様に言いつけてもいいのよ!!」
愛着と申し訳なさから出た私のためらいの言葉を聞いたお嬢様が、顔を真っ赤にして叫んだ。
「わ、私の婚約者を召使いが奪おうとしているって! あなたはこの屋敷から追い出されて仕事も身寄りも失ってしまうわ!」
「……」
私に向って脅しをかけながら悲劇の渦中にいるかのように声を張り上げるお嬢様の、なんと醜く滑稽なことか。容姿の話ではない。自分を何も持っていない不幸な人間と思い込み、ないものねだりで挙句他人のものを羨む。
私から父を、母を奪ったのはお前の父親なのだと言ってしまったらどんな顔をするのか。事を成すまで暴露する気はないが、自分は何も持っていないなどと嘯く者にはどうしても神経を逆撫でされる心地しかしなかった。あの親にしてこの子あり、とはまさにこの事。
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