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恐る恐る二人は身を寄せ合いました。
特に怖いものなんてなにも見えないのに、自分達のいるこの空間そのものが言い知れぬ不安を掻き立ててくるのです。
こんなの生まれて初めての経験でした。
「でもジミー、あたし確かに、誰かに呼ばれて」
チェリィが言い掛けているその途中で、突然強い風が吹きました。
「え、きゃあ!」
突風に驚いてチェリィは叫びます。
「チェリィ! あ、あれを見て!」
ジミーは女神の木を指差しました。
ほんの数秒前まで輝いていたはずの木から、真っ黒い闇が噴き出したのです。
闇は女神の木全体へと覆いかぶさり、唸りを上げて周りの草花をその中に吸い込んでいきました。
「チェリィ、走って!」
咄嗟にジミーはチェリィの手をとって走り出しました。
チェリィは彼の手をしっかり握って足を必死に動かします。心臓がばくばく言いました。
背後から迫ってくる得体の知れないなにか。
あれは危険なものであると本能的に察した二人は、死に物狂いで逃げようとしました。
「あっ」
ジミーがうっかり躓いた拍子に二人の手が離れてしまい、呼吸をつく間もなくチェリィは浮遊感を覚えました。
闇が大きくうねり、強い力でチェリィの身体を引きずり込んでいくのです。
「チェリィ!」
「いやああああ! ジミーッ!」
手足をばたつかせてチェリィは叫びました。
力の限り伸ばした手もジミーに届きません。チェリィは底知れない闇の中へとその姿を消してしまいました。
「チェリィー!」
ジミーは慌ててチェリィを追い掛けようとしたけれど、今度はまるで爆風のように闇がジミーを吹き飛ばしました。
「わあ!」
お花畑の中を二、三回勢いよく転がって、彼は意識を手放しました。
これはチェリィがみらくる村にやってきてから二年目の春、女神の祭りを一週間後に控えた夜のことでした。
チェリィは文字通り、新しい冒険へと引きずり込まれてしまったのです。
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