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「なんかおかしいわね」
チェリィは不安げに辺りを観察しました。
ここはみらくる村のそばにある森はずですが、なぜだか昨夜とは雰囲気が違うように感じられたのです。
もっともあの時は景色を気にしている余裕などありませんでしたが、それでもチェリィは不思議に思いました。
それからしばらくの間うろうろして、ようやく見慣れた場所、らしき場所へ出ました。なぜこんなに曖昧かと言うと、やっぱり自分の知っている景色とは若干違って見えたからです。
美しかったはずの木々や草花がすさんで見えました。
いつもは暖かくて明るい森なのに、今日はどんよりとした様子です。春だというのにこの肌寒さはなんなのでしょう。
カーディガンをしっかりと引き寄せてチェリィは身体をぶるりとさせました。
「ウゥゥゥウウ」
低いうなり声が聞こえてチェリィは跳ね上がりました。
この辺りに怖い動物は出ないはずなのに、今の恐ろしい声はなんだったのでしょう。
ほどなくしてガサリと草を踏みしめる音が聞こえてきました。
振り返ると、すぐ後ろに牛ような頭と人間の身体をした大きな生き物が現れたのです。固い鎧に身を包み、チェリィの背丈よりも巨大な斧を携えておりました。
チェリィは驚きと恐怖のあまり叫ぶことすらできません。
そしてすぐに、この恐ろしい生き物が魔物の類だということに気付きました。
「ほう、こんなところで人間の子供がうろついているとはな」
「あ、あぁ」
「丁度退屈していたところだ。少し付き合ってもらおうか」
魔物は大きな手をぬっと伸ばしてきました。
「ひっ! う、うわああぁぁぁあん!」
わけもわからないままチェリィは駆け出しました。
草をかき分け、石や木の根っこに足をとられながらも懸命に走ります。
「ふはは! いいぞ、逃げろ逃げろ!」
楽しそうに言いながら魔物は追ってきました。
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