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相手はわざと追い付かない程度のスピードを出してこの追いかけっこを楽しんでいるようですが、チェリィはそんなことに気付きません。
怖くて怖くて、必死に足を動かします。
「きゃあ!」
地面の泥に足をとられてチェリィは転んでしまいました。
慌てて立ち上がろうともがいていたら雑草で手を少し切ってしまいました。けれど痛みでめげている場合ではありません。
背後から聞こえる低いうなり声がチェリィを追い詰めます。
「ひえぇん」
間近に迫ってくる魔物の姿にチェリィは怯えました。
チェリィが会ったことのある魔物はちびちゃんズやゴーレムさんといった友好的な魔物だけ。こんな怖い魔物に襲われるなど初めてのことでした。
足がガクガク震えてうまく走れず、ついにチェリィはへたり込んでしまいました。
「どうした、もっと俺を楽しませろ!」
低くて大きな声にチェリィは怯えます。振り返ったチェリィの瞳に、ぎらぎら光る魔物の目が映りました。
「助けて、お母さん!」
金切り声を上げるチェリィに、大きな手が伸ばされました。
「ぐわっ!」
その時どこからか白い球のような物がとんできて魔物の顔面に勢いよくぶつかりました。次の瞬間、ポンッと白煙が上がって魔物の姿を覆い隠してしまったのです。
なにが起こったのかわからなくて茫然としているチェリィの手を誰かが強く引っ張りました。
「走って!」
ぐいっとチェリィの手が引き寄せられます。
混乱しながらもチェリィは足を動かし、自分の手を引いていくその人のことを見上げました。
相手は自分よりも年上のようでした。大人と同じ背丈をした男の人です。
チェリィはこの人の手の感触に驚きました。
つい最近、どこかでこれと同じ感触を体験したことがあるような気がしたからです。
「ま、待てぇ、げほっ!」
後ろの方から苦しそうに魔物が咳き込む声が聞こえてきます。
そのまましばらくの間二人は走り続けました。
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