第一章 1+1=∞

8/36

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
 少女趣味の少女マンガ家と会うのだから相手に合わせて私の服の中で一番ひらひらしたドレスっぽい服を選んだ。気に入ってくれるといいのだけど。  待ち合わせ時間の十五分前から駅の改札前で待ってるのに、逆に待ち合わせ時間から十五分過ぎても天野さんは現れない。デビューできたら締切地獄になるマンガ家志望のくせに時間を守れないなんて!  ファンレターに天野さんのケータイの電話番号が書いてあったから一応電話をかけてみることにした。向こうは私の電話番号を知らない。何か突発的な事故でも発生したのかもしれない。大きく息をついて心を落ち着かせてから、電話をかけてみた。  偶然、そばで大きな着信音が鳴り響く。知ってる。ロッキーとかいう古いボクシング映画のテーマソングだ。天野さんと通話できてもここではロッキーのテーマソングが邪魔でうまく聞き取れないかもしれない。場所を変えようと思った。なぜかロッキーのボリュームが上がっていく。困ったなと思ったら天野さんが電話に出た。とりあえず離れた場所に移動してから話した方がよさそうだ。  「もしもし天野さんですか。黒井です。ちょっとにぎやかな場所にいるので静かな場所に移動します。切らないでこのまま待っていてください――」  「おい、シロアリ!」  突然背後から誰かに呼び止められた。振り返って絶句した。なぜかそこには夏なのに冬服の制服のブレザーを着込んだデビルくん。スマホを握りしめている。こんなときにこんな場所で何? 前にデビルくんの腹違いの弟のシンジくんを助けたことがあったけど、そのことでまた私を責めようと言うのか? 今はそれどころじゃないんですけど!  「おまえが黒井亜利先生だったのか……?」
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加