第一章 1+1=∞

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 今月も優秀賞。これで四ヶ月連続の優秀賞。月刊ピュアというマイナーな少女マンガ雑誌の月間新人賞に毎月マンガを投稿している。最優秀賞(該当なしの月が多い)を獲るか優秀賞を頻繁に獲ると編集部から連絡があり、担当がつきプロデビューへの道が開けることになっている。私は四ヶ月連続で優秀賞を獲ったのに一度も連絡がない。プロデビューに一番近くて一番遠い存在。そんなふうに自虐したくもなる。今月号の私の作品にはこんなコメントがついていた。  いつもながら登場人物のキャラは立ってるしストーリーもキャラをよく活かしたものになってます。でも作画の技術がそれを台無しにしています。作画の基本に立ち返ってみてはいかがですか?  私は自分でコミュ障だという自覚がある。だから、なるべく人と接することを避けてきた。休みの日などは誰とも話さず自分の世界にこもったまま一日が終わることも少なくない。人はそれを妄想症という。妄想でけっこう。妄想の中の私はときにとびきりかわいいヒロインであり、ときに最高権力者である女帝であり、ときにどんな魔力も使える恐ろしい魔王。妄想していればいくらでも飽きない。何時間でも何日でも平気。私の作品はいつも妄想の中から生まれた。私という人間には大した価値はないけれど、私の想像力は(無限大)。おもしろい話ならいくらでも思いつく。  でも作画はどうすれば向上できるのだろう? 周りにマンガを描いてる人もいないし、教わることもできない。そもそも、〈作画の基本〉から勉強し直せと言われてる。自分としてはまあまあ描けてるつもりなんだけど。どうすればいいんだろう? 途方に暮れて、ため息ばかり出てくる。  マンガを描いてることは誰にも言ってない。家族は知ってるけど、学校では秘密。だって、ただでさえ私はスクールカーストの底辺なのに、この上マンガを描いてることがバレたらオタクだオタクだって笑いものにされそうだから。見えないものとしてリア充の人たちに相手にされないのは慣れてきたけど、リア充の人たちに笑いものにされるのは嫌だ。私は大きな石の裏にへばりついているダンゴムシみたいに息を潜めて生きていく。何もぜいたくは言わない。私の希望はそれだけだ。
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